持ち運ぶカタチ「カバン」の変遷をたどる

大昔からカバンは人間の暮らしに無くてはならないものでした。やがて“運ぶ”という行為はその価値を様々に変化させて発達し、運ぶための道具であるカバンも共に変化しています。

時代の大きな流れの中で、カバンは人々とどのように関わり合い、どんな存在だったのでしょうか。

 

自然素材の利用から始まったカバンの歴史

 「自然素材の利用」から始まったカバンの歴史

紀元前30世紀ごろ、人間が洞穴に住み移動しながら暮らしていた時代にもカバンのようなものが存在していました。動物の皮や植物で作った“入れ物”に食料や武器を入れ、すべての荷物を持ち運びながら移動していました。

氷河の中から発見されたアイスマンのミイラは、樹皮を編んだポシェットと山羊皮製のリュックサック、子牛皮の袋を持っており、ポシェットには食料を入れていたと推定されています。

 

古代エジプト時代の舟の行き来で使用していたカバン

古代エジプト時代、舟での往来で生まれたトランク

ナイル川を舟で往来することが、今日のカバンを生み出す大きなきっかけに。大木の幹をくりぬき装飾を施したトランクは、ナイル川を渡る際に重宝されました。

古代ギリシャ・古代ローマの時代には、カバンは富と力の象徴となり、たくさんの荷物と装飾具合によって人々は身分や権力を誇示していました。また荷物の輸送力が権力の確立に大きく影響し、遠征での勝利にもつながりました。

 

聖書の中にもカバンが登場

旧約聖書にはモーゼの十戒が刻まれた石板を納めた箱が登場します。この箱は神輿の起源といわれる鳳輦(ほうれん)の原型という説もあるそう。新約聖書では「新しい葡萄酒を新しい皮袋に」という記述があるように、古代の人々は葡萄酒の貯蔵や輸送に、丈夫で軽い皮袋を使用していたことが伺えます。

  

馬の旅で生まれたトランク

馬車の旅によって生まれた鍵付きカバン

陸路の整備で長い移動が容易になったことで、ローマでは水道橋ができ馬車による旅行が始まります。食器や家具、貴重品などを入れる、鍵付きの美しくデザインされたカバンが生まれました。

古代ギリシャやローマの時代から近世に至るまで、旅行は長らく特権階級のみに許された贅沢でした。

 

日本のカバンの始まりは平面布

日本のカバンの始まりは「平面の布」

日本書紀や古事記には、大国主命が袋を持って登場します。袋の起源と言える「平面布」は創造性の原点とも言えるでしょう。立体を創るベースとなって袋を生み出したほか、荷物を包む風呂敷として確立し、運ぶための道具となりました。

浮世絵など名画に描かれるカバン

江戸時代には鎖国により、小物入れと箱型カバンがそれぞれ独自の発展を遂げます。

1719世紀は袋物黄金時代と言えるほど名作・名品が多くみられ、紙入れ、銭入れ、火薬入れ、大きいものは東海道中膝栗毛にも登場する挟箱などが使われました。江戸末期には薬や印を入れて腰にさげる四角の革や布のカバン(胴乱)が流行します。

一方ヨーロッパでは、18世紀になると広く膨らんだドレスが簡素化されたため、ポケットを隠す場所がなくなりました。それにより紐で引っ張って口を閉じる仕様の布製レティキュールに入れて持ち歩いたり、シャトレーンと呼ばれるチェーン付きの留金をウエストから下げ、荷物を取り付けて持ち歩いていました。ファッションの変化にカバンも対応していきます。

  

リュックサックの起源

ナポレオンの時代 、戦争スタイルに変化

銃の性能が向上し、重い甲冑や鎧は不要になりました。兵士は身軽になり長期戦にも耐えられるようになり、自分用の寝具や食料、弾薬を入れた袋などを背負うようになりました。日本でも背嚢(はいのう)と呼ばれ軍隊で使用され、これが進化して現在のリュックサックやデイパックが生まれました。

 

なめし革の発展

貴族のための馬具や衣装箱を作っていた職人たちにより、格調高いカバンが作られました。19世紀になると皮を腐らせずに柔軟性を持たせる「なめし技術」が各国で発展します。

 

産業革命により工業製品化

新素材の組み合わせと技術の融合などにより、バッグは工業製品化されました。張子、鉄やカットスチール、ビーズなどの新素材がバッグに使用され始めます。

 

機関車で運ぶ旅行カバン

交通機関の発達による変化

1840年代初期に交通・通信網が驚異的発展を遂げ、船や列車によって旅行が大衆化し、カバンの形質的変化をもたらしました。トランクは積み重ねられる形になりましたが依然として大きく、荷物量はひとりでは運びきれないほど多いものでした。

旅が広まるとともに一般品とは一線を画すブランドが登場し、大衆との差別化を求める世界中の王侯貴族が競って注文しました。そしてバッグを手で持ち歩くことが一般化し、列車で旅するときの手荷物用バッグがハンドバッグの先駆けとして現れます。しかし、カバンは依然として自ら持ち歩かず、運んでもらうものでした。

19世紀後半には荷物専用車両が誕生しますが、アメリカでもヨーロッパでも、旅行者は自分の手で荷物を扱うことはなく荷物は1台の専用車両にまとめられ、その車両は先頭近くにつけられました。

 

文明開花で生まれた「カバン」という呼称

山城屋和助がフランスから持ち帰ったカバンを真似て、1873年(明治6年)森田直七に作らせたのが日本の近代カバン製作の始まりといわれます。

初期のカバンは手胴乱と呼ばれていましたが、「カバン」という呼称が出てきたのが1873年(明治6年)。1887年(明治20年)には、谷澤禎三が日本で初めて鞄(カバン)という文字を掲げて店を開きました。 

 

現代のスーツケースの原型

現代のスーツケースの原型

交通の発達によって、1882年にイギリスの首相の名前がつけられた「グラッドストン」が登場。自分で持ち運ぶことをメインに考えられたトランクが男性の間に普及していきました。

 

アタッシェケースの登場

1904年イギリスに登場し、1950年代にはアメリカで普及しました。アタッシェケースは文学や映画に準主役として登場し話題になることで、大きなトレンドを生み出します。1963年に映画『007』の中で使用され、一躍人々の注目を浴び日本でもブームになりました。

 

 限りない可能性を生んだファスナー

1923年に高級ブランドが世界で初めて革カバンとファスナーを組み合わせました。日本でも1928年(昭和3年)にファスナーを輸入。バッグも豊富な素材の使用が可能となり、型も非常に斬新なものができるようになりました。

 

自動車普及で生まれた小型旅行カバン

自動車の普及による小型化

車に乗せて運ぶことを前提に考えられた小型のカバンが登場します。取り回しやすい、最適なサイズに人気が集中しました。

 

 戦時統制により飛躍したカバン

戦時下の日本では、皮革使用制限規則によって牛革カバンが全面的に使用禁止となりました。その代替品として、アザラシや蛇、猪などの革が使われたほか、鮭革やうなぎ革など思わぬ素材のバッグが登場します。戦争が素材の視点を大きく変えるきかっけとなりました。

 

ナイロンバッグ

ナイロン素材のカバンが登場

1953年、東レから発売されたばかりの当時高級素材だったナイロンを使用した「東レナイロンバッグ」が登場。カバンの歴史を変える一大革命と評価され、時代を象徴するプロダクトとなりました。

 

海外旅行自由化

海外渡航自由化でスーツケースが進化

1964年、日本では海外渡航自由化が一般の人々の海外旅行に幕開けを告げ、航空機旅行増加のきっかけとなりました。個人の海外旅行が増え、日本人の体型に合わせたスーツケースが誕生します。 

エースラゲージ株式会社も、スーツケースの進化の一翼を担いました。ブログ記事「エースラゲージ株式会社の歩み」に詳しく掲載していますので、是非ご覧ください。

詳しくはこちら

 

技術の進歩や人々のライフスタイルにあわせて進化 

1969年、米国のアポロ11号が有人月面着陸に成功し、カバンは月の石を持ち帰るために使用されました。

1970代にはライフスタイルやファッションなどすべての面でカジュアル志向が台頭し、英文字やロゴ、イラストで自由な表現を施したバッグ「マジソンバッグ」が一斉を風靡します。

1990年以降、PCやスマートフォンなどのデジタルガジェットの急激な進化に応じて、カバンも素材・形状・機能面で進化していきます。ノートPCが普及してカバンに入れて持ち運ぶようになり、精密機器であるPCを保護するためのスリーブが付いたバッグが誕生しました。

また、ビジネスシーンで服装のカジュアル化が進み、幅広い年代でリュックでの通勤が増加し一般化しました。それにより一部公共交通機関では、通勤時におけるカバンの持ち方に対して、背負う状態から前に抱えて持つよう推奨するなど、カバンの持ち方までも変化しています。近年はリモートワークの普及でさらにビジネススタイルが多様化し、カバンも同様に多様化してます。

その他にも、女性の就業率増加を受けて女性のために開発されたビジネスバッグや、性別で分類しないジェンダーレスなデザインなど、テクノロジーだけでなく社会環境とともにカバンも進化しています。

 

「鞄-カバン-」は文明の発達とともに進化してきました。人々とカバンは、過去も現在も未来も、共に進化と変化を繰り返していくでしょう。

 

(出典:世界のカバン博物館-カバンの歴史-)

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